エバーグリーンは2012年の設立当初から、孤独死現場における特殊清掃を承ってきました。中でも代表の大邑は数多くの特殊清掃の作業に従事しており、現場での経験を積んでまいりました。
一般に「孤独死」あるいは「孤独死現場での特殊清掃」と聞くと、どうしてもネガティブな印象があり、忌避感を覚えるフレーズでもあるという現実があります。一方で、高齢化に伴い孤独死の発生件数は年々増加しており、今後はより多くの人にとって「孤独死」が身近な存在になることが予想されます。
そこで今回は代表の大邑から、孤独死現場での特殊清掃作業の経験についてお話させていただくとともに、合わせて今、清掃業界が直面している課題についても解説させていただきます。「孤独死現場での特殊清掃」というものの実際の姿について、お考えいただく機会になれば幸いです。
ーーエバーグリーンの孤独死現場における特殊清掃の経験や実績は?
孤独死に関わる特殊清掃は、2012年にエバーグリーンを創業した当初からやっておりますので、社としては丸9年の経験があります。具体的な案件数でいうと、直近の2021年は年間76件、その前年の2020年は92件、作業を行ないました。
昨年2021年は一昨年と比べて作業案件数が減っていますが、昨年はお客様からのお問い合わせの数が明らかに少なかったんです。これは弊社だけではなく同業他社もみなさん同じことを言っていて。おそらくですが、新型コロナ禍において人々の健康に対する意識が高まったことで、体調の変化に気付いて病院に行く人が増えて、亡くなられてしまう人が減ったのではないかと。業界内では今のところ、こういった見解がなされています。
ただ、昨年少なくなったのはあくまでイレギュラーであって。昨年を除けば弊社への問い合わせの数は年々増加しているので、孤独死の発生件数も増えているのだろうと思います。
ーー一年をとおして、孤独死現場での特殊清掃の案件数が多くなるのはどういう時期か?
ゴールデンウィークから10月ぐらいまで、季節としては夏が多いです。
人間が突然死してしまう原因というのは、例えば心臓や脳の異変、あるいは自殺など様々なものがあり、こうした死因に関しては季節による変動は大きくはないので、亡くなってしまう件数というのもそこまで変動はないと思います。
ではなぜ、我々の仕事では比較的暖かい季節に案件数が増えるのか。それは、気温が高くなることによって、亡くなってしまった人の遺体が傷みやすくなってしまうからなんです。もちろん、夏場も冷房がずっとかかってる部屋で亡くなられることもあれば、逆に冬場でも床暖房の上やコタツの中など温かいところで亡くなられることもあり。一概には言えずケースバイケースではありますが、全体的な傾向としては、ご遺体の腐敗や変化が進みやすい暑い季節に案件が多くなります。
ちなみに、日本少額短期保険協会という団体が、定期的に孤独死に関する調査を行ない、レポートを発表しているんです。興味がある方はそちらも是非、見ていただくことをおすすめします。
一般社団法人日本少額短期保険協会
ーー特殊清掃が必要になる現場にはどのような特徴があるのでしょう?
同じ死後1ヶ月のご遺体があった現場でも、体液が広がって臭いも強烈な場合もあれば、体液があまりなく臭いも少なく「本当に人が亡くなった現場なのか?」と思うようなところもあります。
これは亡くなった人の年齢や性別、それと体型によって、体液や死臭の状況というのが変わってくるからなんです。あくまで経験則ですが、体液や死臭が発生しやすいのは、40代・50代の男性で体の大きかった人。私が入ったとある現場では、6畳のフローリングの上全面に体液が広がっていて、臭いもマンションの外まで出てたっていうところがありました。近所の人の話を聞くとやはり、体格のいい男の人が住んでいたと。逆に、高齢のおばあさんがひっそり布団の上で亡くなられたという現場では、体液や死臭がほとんど発生していなかったり。科学的、統計的なデータがあるわけではありませんが、体感的にはそういった傾向があります。
ーー住まいの形式などから見える特徴や傾向は?
案件全体の7割くらいがアパートやマンションといった集合住宅です。そもそも孤独死というのは、親・兄弟・親戚・近所との付き合いが希薄であるために起きるもの。異常があったことに周囲が気付かず遺体が放置されてしまうことで、我々のような特殊清掃が必要になるわけです。なので、独居が多い集合住宅がケースとして多くなるのは自然です。
ーー孤独死の現場に入ってきて、印象に残っていることは?
室内に何らかの形で「未練」というか「後悔」というか…そういった故人の想いを感じるメッセージが残っていることがあり、それが印象として残ることがあります。
先ほどお話したとおり、孤独死というのは人間関係が希薄な人に起こりやすい。例えば、結婚して家庭を持った人であっても、年をとって子どもが独立してから離婚をしたり配偶者と離別したりすると、独りになってしまいます。そうした方が亡くなられた現場に入って片付けをしていると、子どもたちが小さい時に家族全員で撮った写真が、埃をかぶりながらもガラスケースに入れられて飾られたりしている。そういった光景を見ると、言語化が難しいんですけど、故人の家族に対する「想い」を感じます。
あとは、新聞の折り込みチラシの空白部分に、遺書めいたことが書かれていたことがありました。そういったものを見ると、ここで亡くなられた方は、自分の命がもう長くないことを悟っていたのかもしれないな、と思ったりします。
それと、記入された履歴書がたくさん残っている部屋なんてのもありました。年をとってからでも、あるいは体調が悪くとも、生きていくためにはお金を稼がなければいけない人は少なからずいて。その部屋の人もなんとか頑張ろうとされていたんでしょう。でも、履歴書がたくさん残っており、結果として孤独死になったということは、結局その人は定職に就くことが出来なかったんだろうなあ、と。
ーー孤独死の現場とはすなわち、人が生きていた空間ですから。生活の痕跡からは、どのような人が生きていたのかが伝わってくるわけですね。
そうですね。私の感覚としては、やはり部屋の中は荒れているケースが多いように感じます。食べ物のゴミが山積みになっているとか。先入観を持ってはいけないとは思いますが、やはり生活が乱れているような人が、孤独死には多いのかなという気はしますね。
ーー逆に、いわゆる「孤独死現場らしさ」がない現場として、印象に残っているようなケースはありますか?
あんまりそういったケースはないですね。ちょっとニュアンスが変わりますけど「この部屋、なんか空気が良くないな…」と思うことが、まれにあります。これも言語化が難しいんですけど、なんていうか…空気がちょっと「イヤだな」と感じてしまうというか。私自身これまでに何千件もの現場に入ってきた中で、片手で数えられるぐらいしかないんですけど「この現場には入りたくない」と感じてしまうことがあったんです。
ーーそれは、現場の状態とは関係ない、まったく別の話ということですか?
そうです。というのも、孤独死現場だけではなく、生前整理などの「人が亡くなられていない現場」での作業であっても、そういった感覚になってしまうことがあるんです。
無意識のうちに霊的というか、スピリチュアルな部分というか、感性なのかもしれませんし…あとは「匂い」なのかもしれないな、とも思っています。死臭という臭いに対してはもう現場経験を重ねているので耐性ができているんですけど、それとは別の意味で「苦手な匂い」というのが、個人的にはどうしてもあるんですよね。
ーー話題を変えまして、エバーグリーンでは直近の2021年は76件、その前年の2020年は92件、孤独死現場で作業を行なっています。週に1件以上と考えると多いようにも感じますが?
いや、会社としてはまだ少ないと思っていますし、もっと多く作業をしたいとも思っています。
なぜかというと、残念ながらこの業界にはいわゆる「悪徳業者」がまだ多くあるからです。特殊清掃の作業でいえば「残置物の撤去はやるけど体液の処置はそのまんま」というような業者。あるいは「見える部分だけ体液を処置して、裏側はそのまんま」といった業者も多くあります。
そのように作業が中途半端なままだと当然、ご依頼主である大家さんやご遺族は困ったままですから、結局我々のような別の業者に追加で作業をお願いすることになります。費用も余計にかかりますし、時間だってかかりますよね。
ですから、そういった良くない業者に任せてしまうお客様を減らすといった意味合いでも、我々がもっと多く特殊清掃の作業に入れるようになりたいと思っているんです。
ーーそういった中途半端な業者が増えてしまう背景には、どのような問題があるのでしょう?
色々とあるのですが、ひとつ要因としてあるのは「損害保険が原状復旧の分までカバーしていない」ケースがまだ多くある、ということです。そういったケースだと、業者が本来行うべき体液の除去や死臭の消臭といった作業は保険の適用範囲外となってしまい、管理会社か家主が費用を負担しなければならなくなります。悪い業者というのはそこにかこつけて、中途半端に作業を終わらせてしまうわけです。
とはいえ最近は保険の業界でも、こういった課題を認識しています。冒頭でご紹介した日本少額短期保険協会が孤独死の調査レポートを出したり、あるいは「孤独死対策サミット」というイベントを開催したりしているのも、こういった課題があるからでしょう。
ーー孤独死現場の特殊清掃における悪徳業者の話、あるいはその背景にある保険に関する課題は、今はまだ業界内で共有されている課題に留まっていますが、今後、孤独死が増えていくことで、一般の方々にとっても身近な課題になってくるかもしれませんね。
そうですね。高齢化が進んでいる中で、やはり我々のような特殊清掃の業者のニーズというのは、なくなることはないと思います。
ただ、繰り返しになりますが、適正・的確な作業をできている業者が多くないというのが、本当にこの業界の問題なので。そこは嘆いていても仕方ありませんから、私たちは私たちが出来る最善の仕事をしつつ、今回の記事のような情報発信や啓蒙活動にも積極的に取り組んでいきたいと思っています。
ーー最後に、エバーグリーンが孤独死現場での特殊清掃において大事にしていることがあれば、教えてください。
例えばの話ですが、エバーグリーンでは「完全に消臭します」というフレーズではなく「お客様が納得するまでの消臭をします」という言い方を大事にしています。
なぜかというと「臭い」の感じ方というのは人それぞれだからです。私たちにとっては臭いが消えたと感じても、お客様にしてみれば臭いが残っていると感じることがある。もちろん逆もありえます。そういった中で「完全に消臭します」というのは、ある意味では無責任な言葉なんです。孤独死現場での特殊清掃という現場をきちんと理解しているからこそ「完全な消臭」などとは簡単には言えません。
本当に大事なことは、お客様に納得をしていただくことです。我々が出来る限りの作業を現場で行なった上で、お客様に対しても作業に関する説明をさせていただく。お客様とのコミュニケーションで「消臭」に対する認識のレベル感をすり合わせていきながら、ご納得いただける妥協点を見出す。こういった仕事のスタンスを、エバーグリーンでは大事にしています。
弊社が作業を行った特殊清掃の動画
この記事について
大邑政勝
- 家財整理専門会社エバーグリーン 代表
- 一般社団法人 家財整理相談窓口 理事
- 一般社団法人 日本特殊清掃隊 理事
特殊清掃、遺品整理、火災現場復旧など10年にわたる現場経験と多種の資格を有し、豊富なノウハウで顧客第一のサービスの提供に努める。