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特殊清掃の費用は相続放棄すれば払わなくて済む?単純承認リスクと正しい進め方

特殊清掃の費用は相続放棄すれば払わなくて済む?単純承認リスクと正しい進め方

突然の孤独死により、警察からの連絡で駆けつけると、強い臭気と汚損。大家からは「すぐに清掃を」と迫られる。そんな状況で頭をよぎるのが「相続放棄すれば、この高額な特殊清掃費用を払わなくて済むのでは?」という疑問ではないでしょうか。

結論、相続放棄が受理されれば、原則として特殊清掃の費用負担から解放されます。 ただし、以下の2点に注意が必要です。

  • 連帯保証人になっている場合は、相続放棄しても保証契約に基づく支払い義務が別途残る
  • 相続放棄の前に故人の財産から清掃費を支払ってしまうと、「法定単純承認」となり、相続放棄自体ができなくなる可能性がある

つまり、「払えるかどうか」の前に「どう動くか」を間違えると、数百万円の負債を背負う結果になりかねません。

本記事では、特殊清掃の費用と相続放棄の関係を、ご遺族の視点から整理します。法律解釈はあくまで一般論です。最終判断は必ず弁護士・司法書士にご相談ください。

特殊清掃の費用と相続放棄の基本的な関係

相続放棄とは

相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産を「プラスもマイナスも一切引き継がない」と家庭裁判所に申述する手続きです。受理されると、最初から相続人ではなかったものとして扱われます。

つまり、故人に借金があっても、特殊清掃費用の請求が来ても、相続人としての支払い義務からは解放されます。

期限は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内です。 この期限を過ぎると原則として放棄できなくなるため、早めの判断が求められます。3ヶ月で判断できない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てることも可能です。

特殊清掃の費用が高額になる理由

特殊清掃の費用は、状況によって数十万〜百万円規模になります。ご遺体の発見が遅れた現場では、体液の浸透・腐敗臭・害虫の発生が複合的に重なり、感染症対策・消臭・汚染物の搬出を一括で行う必要があるためです。

たとえば夏場に発見が2週間以上遅れた1Kの居室では、フローリングの剥離・下地処理まで必要になり、60万〜100万円程度になることも珍しくありません。

この高額な費用を「誰の財布から払うか」が、相続放棄の成否を左右する重大な分岐点です。

「誰の財布から払うか」がすべてを決める

特殊清掃費用と相続放棄の関係で最も重要なのは、支払い原資です。

  • 故人の預貯金から支払う → 民法921条1号の「相続財産の処分」に該当し得る → 相続放棄ができなくなるリスク
  • 相続人自身の財布から支払う → 処分行為と評価される懸念は大きく下がる

たとえば、故人名義のキャッシュカードで50万円を引き出して清掃業者に支払った場合、その時点で「単純承認した」とみなされる可能性があります。

一方、相続人自身の口座から振り込み、領収書を保管しておけば、後日の説明材料が整います。

相続放棄前にやってはいけない特殊清掃の費用に関する5つの行為

①故人の預貯金から特殊清掃費用を支払う

最も典型的なリスクです。故人名義の口座から引き出して業者に支払えば、清掃という社会的に必要な目的があっても、「相続財産の処分」と判断される可能性があります。

費用を立て替える場合は、必ず相続人自身の口座・現金から支払い、振込明細と領収書を保管してください。

②財産的価値のある遺品を売却・処分する

腕時計、貴金属、ブランド品、骨董品、自動車など市場価値のある遺品の売却は、単純承認の典型例です。

「清掃費に充てるため買取業者に査定してもらい、相殺した」という運用は、相続財産の換金・充当そのものであり、リスクが高い行為です。買取と清掃を兼業する業者から「査定して相殺しましょう」と提案された場合は、いったん持ち帰って専門家に相談してください。

③現金・貴金属・通帳を持ち帰る

故人の部屋で見つけた現金や貴金属を相続人が持ち帰ると、相続財産を自己の支配下に移す行為として処分行為と評価される可能性があります。

発見した貴重品は、写真を撮って記録を残したうえで現場に保管するか、第三者立ち会いのもとで別保管としてください。「形見として」であっても、相続放棄検討中は手を付けないのが鉄則です。

④原状回復の費用負担を約束する書面にサインする

管理会社から差し出された「原状回復費用を負担します」という合意書に署名すると、契約上の義務承継と評価される懸念があります。大家や管理会社からの書面は、署名する前に弁護士・司法書士に確認してください。

鍵の返却そのものは直ちに単純承認にはなりませんが、合意書への署名が伴うかどうかで評価が変わります。

⑤故人名義の契約を解約し、未払金を精算する

携帯電話、電気・ガス・水道、サブスクリプションなどの解約は急ぎたくなりますが、解約に伴う未払金を故人の財産から精算すると、相続財産の消費と評価されるリスクがあります。

生活インフラの停止は相続放棄の手続きと並行して、弁護士・司法書士と相談しながら進めてください。

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相続放棄しても特殊清掃の費用を払うケース

相続放棄が受理されれば原則として故人の債務から解放されますが、相続とは別の根拠で費用負担を求められるケースもあります。

連帯保証人になっている場合

故人の賃貸契約で連帯保証人を引き受けていた場合、保証契約は相続関係とは独立した契約上の義務です。相続放棄しても、連帯保証人としての支払い義務は消えません。

2020年4月以降に結ばれた賃貸借契約では、個人の連帯保証人に「極度額」(上限額)が設定されています。極度額を超える請求はできないため、まず賃貸借契約書と連帯保証契約書で極度額を確認してください。極度額の記載がない個人根保証契約は無効です。

分譲マンションの管理組合から請求される場合

分譲マンションでは、専有部分の腐敗臭が共用部に及んだ場合、管理組合から原状回復を求められることがあります。

相続人全員が放棄した場合、管理組合は「相続財産清算人」の選任を申し立て、故人の財産から費用を回収する手続きに進みます。

相続人全員が放棄した場合の最終的な負担者

相続人全員が放棄し、連帯保証人もいない場合、最終的には物件オーナーが負担することになります。賃貸物件であれば、孤独死保険に加入していればそこから補填されます。

持ち家の場合は、利害関係人が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、故人の不動産を売却して費用に充てる流れが想定されます。

相続放棄を検討中の特殊清掃の進め方|5つの判断軸

①時間:3ヶ月の期限を最優先で管理する

相続放棄の期限は「相続開始を知ったときから3ヶ月」です。この期限管理が最優先です。

財産・債務の調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立ててください。清掃の手配に追われて期限を過ぎてしまうと、放棄の選択肢自体が失われます。

②財布:相続人自身の財布から立て替える

故人の財産には手を付けず、相続人個人の口座から支払います。領収書と振込明細を保管し、後日の家庭裁判所への説明材料を整えてください。

立替金は、相続財産清算人が選任された後に債権として届け出ることで、故人の財産から回収できる可能性があります。

③範囲:応急対応に限定し、リフォームは後回し

作業範囲は「悪臭抑制と衛生保持に必要な最小限」に絞ります。

具体的には、汚染物の除去・害虫駆除・最低限の消臭処理にとどめ、内装の張替やリフォームは相続放棄の結果が確定してから検討してください。

④主体:依頼主の名義を明確にする

見積書・契約書・領収書の依頼主名義を、「故人の相続人」ではなく「応急清掃を依頼する近親者」「連帯保証人」など、ご自身の立場に合った表記にしてください。書面の名義が後日の法的評価に影響します。

⑤記録:写真・領収書・廃棄品リストを残す

作業前後の写真、見積書、領収書、作業内容の記録、廃棄した物品のリスト——これらは後日の家庭裁判所や債権者への説明材料になります。

財産的価値があり得る物品は別保管・別撮影とし、廃棄品は状態がわかる写真を残してください。

限定承認という第三の選択肢

「相続放棄するとプラスの財産も失う。でも借金の全額を引き継ぐのは怖い」そんな場合に検討できるのが限定承認です。

限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ故人の債務を返済する制度です。プラス財産が300万円、債務が500万円なら、300万円で清算して残り200万円の債務は引き継ぎません。逆にプラスが多ければ、余った分は相続人のものになります。

ただし、限定承認は相続人全員の共同で申述する必要があり、財産目録の作成や官報公告などの手続き負担が大きいため、利用件数は多くありません。「故人の財産も負債も全容が見えない」段階では、限定承認も含めて弁護士・司法書士にご相談ください。

出典:裁判所「相続の限定承認の申述」

特殊清掃の費用と相続放棄に関するよくある質問

Q1. 相続放棄すれば特殊清掃費用は一切払わなくてよいですか?

相続人としての義務は免れますが、連帯保証人になっている場合は保証契約に基づく義務が別途残ります。まず賃貸借契約書で連帯保証の有無を確認してください。

Q2. 故人の預貯金から清掃費を払うと相続放棄できなくなりますか?

可能性があります。民法921条1号の「相続財産の処分」と評価されると、法定単純承認が成立し、放棄ができなくなります。費用は相続人自身の財布から支払い、領収書を保管してください。

Q3. 近隣から苦情が来ていて緊急対応が必要です。どうすれば?

悪臭抑制のための最小限の応急清掃であれば、民法921条但書の「保存行為」として許容される余地があります。ただし判断は事案により異なるため、可能な限り事前に弁護士・司法書士に確認し、作業範囲と記録を整えてから着手してください。

Q4. 葬儀費用は故人の預金から払っても大丈夫ですか?

社会通念上相当な範囲の葬儀費用であれば単純承認に該当しないとする裁判例はありますが、金額や状況によって評価は分かれます。可能であれば相続人自身の財布から立て替え、後日精算する形が安全です。

Q5. 相続放棄の3ヶ月に間に合いそうにありません

家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てることで、期間を延長できる可能性があります。期限が迫っている場合は、すぐに弁護士・司法書士にご相談ください。

Q6. 相続人全員が放棄したら、特殊清掃費用は誰が払うのですか?

家庭裁判所が選任する「相続財産清算人」を通じて、故人の財産から弁済される流れが原則です。賃貸物件なら連帯保証人や大家が負担する場合もあり、孤独死保険から賄われるケースもあります。

まとめ:特殊清掃の費用と相続放棄で後悔しないために

相続放棄が受理されれば、原則として特殊清掃の費用負担から解放されます。

ただし、故人の財産から費用を支払う・財産的価値のある遺品を処分する・原状回復の負担を約束する書面にサインするなどの行為は単純承認とみなされ、放棄の選択肢を失うリスクがあります。

判断に迷ったら、清掃の手配と並行して弁護士・司法書士への相談を進めてください。

エバーグリーンは、相続放棄を検討中の方への事前ヒアリングと、応急対応・本格清掃を分離したご提案を承っています。

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大邑政勝

この記事について

監修

大邑政勝

  • 家財整理専門会社エバーグリーン 代表
  • 一般社団法人 家財整理相談窓口 理事
  • 一般社団法人 日本特殊清掃隊 理事

特殊清掃、遺品整理、火災現場復旧など10年にわたる現場経験と多種の資格を有し、豊富なノウハウで顧客第一のサービスの提供に努める。

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