犬や猫などのペットを、飼い主が世話できる頭数以上に増やしてしまい、世話ができなくなり破綻してしまう「多頭飼育崩壊」が社会問題となっています。多頭飼育崩壊が発生すると、飼い主の生活環境だけではなく周辺にも多大な影響を及ぼします。何より、飼われているペットたちの生命に影響を及ぼすこともある、重大な社会問題です。
令和3年の3月、環境省は多頭飼育対策のガイドライン「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」(以下「多頭飼育対策ガイドライン」)を策定し公表。多頭飼育崩壊という社会問題に対して、行政組織が一体となって取り組む姿勢を明確にしました。
そこで今回は、多頭飼育対策ガイドラインを参考に、ペットの多頭飼育崩壊の原因や対処法についてご紹介していきます。
多頭飼育崩壊による3つの影響
多頭飼育崩壊が発生すると、どのような影響が起きるのでしょうか。多頭飼育対策ガイドラインでは、3つの影響にまとめて解説されています。
飼い主の生活状況の悪化
ペットの数が増えすぎて飼い主の飼育管理能力を超えると、ペットの糞尿や食べ残しなどの掃除が行き届かなくなり、まず自宅の衛生環境が悪化していきます。それらが徐々に積み重なっていくと、臭気や害虫、ねずみ等が発生。飼い主の健康状態に影響を与えるほどに、不衛生な環境になってしまいます。場合によっては感染症の発生を引き起こし、飼い主の健康や生命にも影響を与える可能性があります。
さらに、多頭飼育をしているとその分、エサ代等の飼育コストが重くのしかかり、飼い主の家計状況に大きな影響を与えるようになります。すると、やがて飼い主の衣食住環境の悪化につながっていき、そのことも飼い主の健康や生命に影響をおよぼすことになります。事実、多頭飼育対策ガイドライン内でまとめられている多頭飼育崩壊の事例調査(以下、「事例調査」)では、事例全体のうち53.5%が「経済的に困窮している」状況であったと回答しています。
動物の状態の悪化
先述したとおり、多頭飼育崩壊が発生すると自宅の衛生環境が悪化していきます。このことは、飼い主のみならずペットの健康や生命にも悪影響です。事例調査では、事例全体のうち「皮膚炎や病気の疑いがある」事例が47.9%、「動物に寄生虫が寄生している疑いがある」事例が35.8%、動物の栄養状態が悪い」事例が30.3%など、ペットの健康問題が多くの割合で発生していることを示しています。そして残念なことに、全体の15.3%の事例で「動物の死体」が発見されています。
また、多頭飼育崩壊の環境下で生活するペットの多くは、人との適切な関係性を築くことができていません。このことで、もし飼い主の手から離れたとしても、新しい飼い主を見つけることが難しくなります。治癒の見込みがない病気にかかっていたり、人に慣れておらず攻撃性があるなど新しい飼い主への譲渡が不適切と見なされれば、殺処分の対象になる場合もあります。
周辺の生活環境の悪化
多頭飼育崩壊による衛生環境等の悪化が深刻になると、その影響は自宅内にとどまらず周辺の生活環境にも及んできます。悪臭や騒音、害虫等の発生、感染症など、近隣住民の生活環境や健康状態にまで影響を与える可能性が生じてしまいます。また、場合によってはペットの逃走が発生し、家屋への浸入や咬傷事故などのトラブル・事故の発生を招きます。
多頭飼育崩壊が起きてしまう原因
続いて、多頭飼育崩壊が起きてしまう原因について、3つに分けて解説していきましょう。
原因その1.繁殖制限措置の不実施
多頭飼育崩壊の多くは、ペットの飼い主が不妊去勢手術等の適切な繁殖制限措置を施さずに飼育を続けることによって発生します。多頭飼育崩壊の事例調査によると「不妊去勢手術を行っていない動物がいる(いた)」割合は91.7%となっています。
元々、ペットは自然界の生き物であるため、生存競争を勝ち残るために多くの子どもを産む仕組みを持っています。そのような仕組みを持っているペットが人による飼育下という安全な環境にいれば、飼い主が適切な繁殖制限をしない限り急激なペースで増加していくのは当然。そのため、動物愛護管理法でも「繁殖制限」が飼い主の責務であると定められているのです。
原因その2.アニマル・ホーダー
アニマル・ホーダーとは、異常な執着心をもって動物を過剰に収集してしまう(アニマル・ホールディング)精神状態の人のことを言います。原因その1の「繁殖制限措置の不実施」は、動物が自然の仕組みで増えてしまうことが頭数増加の直接的要因ですが、アニマル・ホーダーの場合はペットの繁殖に関係なく、さまざまな方法でペットを「集めてしまう」ことが特徴的です。
アニマル・ホーダーは、「動物が好き」という心理的理由でペットを多く飼っている飼い主とは異なり、ペットを「集める」行為そのものに執着しており、それゆえにペットの飼育環境が悪く、多頭飼育崩壊につながりやすい傾向があります。なお、かつてはアニマル・ホーダーは女性や独居老人が多いという固定概念がありましたが、最近では性別や年齢、配偶者の有無等に関係なく、誰もがアニマル・ホーダーになり得るという研究結果も出ています。
原因その3.飼い主の高齢化や病気等
元々は正常な環境下でペットを飼育してきた飼い主が、高齢化したり病気にかかるなどして正常な飼育環境を維持できなくなることも、多頭飼育崩壊の一要因となっています。家族でペットを飼育している場合は家族が役割分担をすることで適切な飼育環境を維持しやすいですが、一人暮らしの場合だと飼い主が動けなくなってしまうと途端に多頭飼育崩壊へと向かってしまうリスクがあります。場合によっては飼い主が死亡して親族等が自宅等に入って初めて、多頭飼育崩壊が発覚するようなケースもあります。
多頭飼育崩壊への対処法
多頭飼育崩壊を起こさないための予防法
先述のとおり、多頭飼育崩壊の原因の多くは繁殖制限措置の不実施にあり、実際に多頭飼育崩壊の事例調査でも、ほとんどの事例で不妊去勢手術等が行われていなかったという結果が出ています。自宅でペットを飼う場合には、不妊去勢手術等の繁殖制限措置を最優先で行なうことが、多頭飼育崩壊に対する最も有効なの予防法であり、法律に定められている飼い主の責務でもあります。そのことを、ペットの飼い主やこれから飼い主になろうとしている方は、しっかりと認識しておくことが重要です。
動物愛護センターや保健所に相談する
自宅が多頭飼育崩壊に陥っている、親族や知人が多頭飼育崩壊となり困っている、あるいは近所に多頭飼育崩壊が疑われる家がある場合には、動物愛護センターもしくは保健所といった行政機関にすみやかに相談するようにしましょう。適切な対処方法についての指南を受けたり、増えすぎたペットの引き取りについて相談に乗ってもらうことができます。
多頭飼育崩壊は、ペットの数が増えれば増えるほど状況がより深刻になっていくので、早期の気付きと対処が非常に重要です。例えばペットの糞尿の処理が行き届いておらず異臭がまん延していたり、不妊去勢手術等をしておらずペットがどんどん増えていったり、あるいは鳴き声や吠え声が異常にするなどの兆候や違和感があった場合には、すみやかに動物愛護センターや保健所に相談することをおすすめします。
多頭飼育崩壊現場の片付けは専門業者に依頼しよう
多頭飼育崩壊の現場に対しては、動物愛護センターや保健所、あるいは動物愛護のNPO法人等がペットの引き取りはしてくれても、掃除や片づけは行なわないのが通常です。そのため、多頭飼育崩壊の対処については「多頭飼育崩壊で荒れ果てた現場をどうやって片付けるのか」も重要な課題となります。
多頭飼育崩壊の現場を片付けるにあたっては、大量に発生しているであろうゴミの処理はもちろんのこと、衛生的な環境を取り戻すために糞尿除去や消毒、消臭などといった専門的な作業が必要になります。場合によってはクロスやフローリングを剥がして処置する必要もあるため、とても個人では対処できないことが多いです。
そのため、多頭飼育崩壊現場の片付けは、片付け・清掃作業の専門業者に依頼することを強くおすすめします。専門業者に依頼する際には、ホームページ等を確認して、ペット飼育環境の清掃について専門的なスキルやノウハウがあるかを確認しましょう。
エバーグリーンでも、多頭飼育崩壊現場を含めたペット飼育環境の清掃を承っております。多頭飼育崩壊現場の片付けにお困りの方はぜひ、エバーグリーンまでご相談ください。
この記事について
大邑政勝
- 家財整理専門会社エバーグリーン 代表
- 一般社団法人 家財整理相談窓口 理事
- 一般社団法人 日本特殊清掃隊 理事
特殊清掃、遺品整理、火災現場復旧など10年にわたる現場経験と多種の資格を有し、豊富なノウハウで顧客第一のサービスの提供に努める。